本年度は、平成13年度に引き続き、公刊・未公刊一次資料の集中的な調査収集に重点を置いて研究計画を執行した。その実績は、次の通りである。 まず東京への出張調査によって、靖国偕行文庫所蔵の旧陸軍関係資料『井上忠男資料』の調査を中心的に行ない、戦犯釈放問題に関する貴重な情報を多々入手しえた。この資料調査については、次年度以降も継続予定である。 また前年度に収集した条約局法規課『平和条約の締結に関する調書』の検討にも着手した。これは、サンフランシスコ講和条約の形成過程を分析するのに大変有用な資料であり、これにアメリカ、イギリス、ニュージーランド等の外交文書を付き合わせることで、従来検討がほとんどなされていない同条約第11条(戦争犯罪条項)の形成過程とその意味が明らかになるであろうと判断された。そこで、次年度には、特に戦犯釈放に関する法的枠組みである講和条約第11条に関する検討を本格的に行ない、学術論文として公刊できればと考えている。 なお本年度には、科学研究費補助金(研究成果公開促進費)の交付を受けて、単著書『東京裁判の国際関係-国際政治における権力と規範』を公刊することができた。これは、戦犯裁判をめぐる政策の立案・執行・終結過程を実証的に分析したものであり、本研究課題と密接な関連を有する研究成果である。次年度以降は、さらなる資料収集と併せて、検討作業を本格化させていく予定である。
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