本年度は、第一に、本研究開始時に設定した予定どおり、未公刊一次資料の調査収集計画を継続執行した。具体的には、靖国偕行文庫(東京都千代田区)所蔵の旧陸軍関係資料『井上忠男資料』を集中的に調査し、戦犯釈放問題に関する貴重な情報を入手することができた。それらの情報のうちでも、戦犯釈放の概要を知りうる資料を確認したことが特筆されるが、他の資料も含めて、いまだ資料調査作業は十分ではなく、次年度においても調査を継続する予定である。 第二に、本年度当初に重視した対日講和条約第11条(戦犯条項)の形成過程については、わが国内外の資料を仔細に分析した結果、かなりの程度、その内実と条項の政治的意味を解明することができた。この問題に関する成果は、いずれレフェリー制の全国学会誌で発表することを予定している。さらには、講和条約形成過程の研究を通じて、その前段階である占領後期の戦犯釈放問題が不可欠の検討課題であることも判明した。 次年度は、本研究計画の最終年度であるものの、本研究課題の範囲の広さからして、おそらく講和発効後の展開まで含めた戦犯釈放の全体像を明らかにすることは困難であろう。しかしながら、日本占領後期から講和条約発効にいたる政治過程については、検討作業を完了させ、成果を出したいと考えている。
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