本研究の初年度は、中露国境河川のウスリー河流域(ダマンスキー島及びハバロフスク近辺)とアルグン河流域(内モンゴル自治区及びチタ州)の領土問題の調査を行い、2001年のハルビン国際会議において、成果の一部を報告した。次年度は、同じ国境河川のアムール河2000キロ全体を視察し、これにより約4000キロの中露国境地域ほぼすべての踏査を完了した。その結果、領土問題の解決(係争地であった島嶼がどのように中露間で配分されたか)の実体と国境画定後の中露国境地域の現状についての知見を得た。さらにこの2年間の調査の過程で、中国黒龍江省の各県レベルの郷土誌を収集し、ロシア側でも国境警備隊、税関、行政府関係者からの聞き取りをしたが、これにより、ポスト冷戦時代の中露国境交渉とその実体がほぼあきらかになり、国境「担ぎ屋」貿易の現状とあわせて分析を行うことができた。その最終成果は角川書店から『中・ロ国境4000キロ』(2003年3月)として刊行されている。この成果は欧米の中露関係研究でも、また中露の研究者でも十分にはなしえなかった領域(領土問題)を全面的にカバーしており、成果の一部は、すでに2002年6月のハルビンでの国際会議などですでに報告されたが、まもなく中国語でも刊行される。さらに11月には北京とハルビンから著名なロシア研究者を招請し、スラブ研究センターで「中露『戦略的パートナーシップ』-北京とハルビンの見方」と題したセミナーを開催した。報告者のロシア語ペーパーとあわせて、英・露・中・日の4言語で編まれたその報告書はすでに公刊されている。また本研究を通じてあきらかになった中露関係にかかわるレッスンを、他地域に応用する試みとして、中露と中央アジアとの関係について、2002年7月の国際平和学会(ソウル)で報告した。
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