本年度はタイにおける地方分権政策実施の現状について、関係資料収集と現地調査を中心に、第1回は2001年8月から9月にかけてバンコクおよびチェンマイにおいて、そして第2回は2002年2月から3月にかけてバンコク、チェンマイ、南部地方において調査を実施した。 具体的には、チュラーロンコーン大学、タマサート大学、チェンマイ大学において関係研究文献および諸資料の収集を行い、共同研究者を含む大学研究者4氏に対して聞き取りを実施した、また内務省、県自治体、郡役所、市町、タムボン自治体において資料収集と聞き取り調査を行った。とくにタムボン自治体については、チェンマイ県において3カ所、南部ソンクラー県等において4カ所、それぞれ財政規模などの違う自治体を比較しつつ執行部責任者、助役、議会議員、職員に対して、自治の現状および県や郡との関係、そして各種の問題等について聞き取りを実施した。その結果、タムボン自治体の行政において、全国的に多くの問題が発生し、監督機関との軋轢や自治体内部の対立などによって様々な混乱が生じつつあることが判明した。 このような状況の原因はいくつか考えられる。まず第一に、タムボン自治体の前身であるタムボン評議会以来の利権構造が、従来とは別の形で再編されつつある。第二に、タムボン自治体の設置にともなって急速に拡大された財政構造が、そのような利権をめぐる対立を助長している。さらに第三に、様々な政治的な思惑の中で地方分権化が拙速に実施されており、地方自治の本来のあり方や、問題解決のためのシステムが十分に検討されていない、ということがあげられる。 そこで次年度は、以上の調査結果および中央、地方政治関係の状況変化を踏まえた上で、タムボン自治体だけでなく既存の都市自治体についても現地調査を行い、地方分権化の全体像と問題点をさらに調査研究していく予定である。
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