研究概要 |
本研究の目的は,意思決定者の狭い選好の仮定を緩めた意思決定モデルを構築し,組織の諸問題に適用することによって,組織の経済学と組織論との間の補完性を促進し,日本企業のあるべき姿についての含意を引き出すことにある.平成13年度は(8, 9月を除く)毎月1度,京都大学で開催される契約理論の研究会に出席し,研究者との議論を通して経済モデルに柔軟な選好を導入した既存の研究を資料収集・整理を行った.経済学者による心理学へのアプローチは現在もっとも注目される分野のひとつとなっているが,そのような境界領域における意思決定を組織の分析へと適用して重要な含意を引き出す研究はまだきわめて少ないことが確認された.数少ない研究のひとつにAuriol and Renault(1999)がある.彼女らは複数エージェントのモラル・ハザードのモデルに「地位」「社会的注目」を組織設計変数として導入している.その結果,地位とペイが補完的であること,平等主義が望ましいこと,金銭的インセンティブより昇進によるインセンティブが望ましいこと,など通常のモデルとは異なる興味ある結果を導出している.拡張と応用の可能性を強く感じ,刺激された.また組織論の分野における研究成果の資料収集・整理を行い,日本企業のコーポレート・ガバナンスと組織再編(リストラ)の問題に関連した理論・実証研究(未公刊)へのインプットとした.とりわけ親子会社間の権限委譲,責任,モニタリングの間の相互補完性と,関連多角化した大企業の内部組織において資金配分が非効率となる問題についての分析を行った. E. Autriol and R. Renault(1999):The Costs and Benefits of Symbolic Differentiation in the Work Place, mimeo.
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