研究概要 |
本研究の目的は,意思決定者の狭い選好の仮定を緩めた意思決定モデルを構築し,組織の諸問題に適用することによって,組織の経済学と組織論との間の補完性を促進し,日本企業のあるべき姿についての含意を引き出すことにある。平成14年度は平成13年度に続いてほぼ毎月1度,京都大学で開催される契約理論の研究会への出席,および知識提供のために招待された研究者との議論を通して,経済モデルに柔軟な選好を導入した既存の研究を資料収集・整理を行った。経済学者による社会学・心理学へのアプローチは「行動経済学」という名称で現在もっとも注目される分野のひとつとなっている。そのことは2002年のノーベル経済学賞が,実験経済学のVernon Smithとともに行動経済学のDaniel Kahnemanが受賞したことからも明らかである。実際,行動経済学は多くの実験結果を通して徐々に浸透していった経緯がある。 そして行動経済学は,多くの実験結果を説明できる個人の意思決定モデルの構築という段階に現在進んでいる。今回の研究でも,多様な意思決定モデルの存在が確認され,それらの対比を行うことができた。一方,そのような境界領域における意思決定を組織の分析へと適用して重要な含意を引き出す研究はまだきわめて少ない。しかし組織におけるインセンティブ設計という契約理論的分析枠組みにおいては,多面的に動機づけられる選好を持つエージェントを想定することによって,プリンシパルによる最適契約も大きく変化することになる。本研究では複数エージェンシーの理論において,エージェントの選好が地位,社会的関係,公正等によって多面的に動機づけられると仮定し,そのようなエージェントに対するプリンシパルの最適契約設計問題を分析した。その結果を日本企業のコーポレート・ガバナンス,人事制度,組織再編等に適用して有益な含意を引き出すことができた。 本研究に基づく研究論文は現在執筆中で,2003年10月の日本経済学会秋季大会での招待講演論文として,6月末にJapanese Economic Reviewに投稿される。また,日本語の関連論文を『現代経済学の潮流2004』東洋経済新報社(2004年出版予定)に掲載する予定である。
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