本研究の目的は、多様な社会制度の下でそれぞれが固有の価値を追求する複数の経済主体の間でいかにして自発的な協力関係が実現し安定な提携形成へと発展するか、その条件とメカニズムをゲーム理論の新しい分析手法を用いて考察することである。平成14年度の研究実績は以下の通りである。 (1)協力行動と提携形成の非協力交渉ゲームモデルの構築と分析 経済主体の協力行動と提携形成を分析する動学的な非協力交渉ゲームモデルを構築し合理的均衡理論を用いて、協力行動と提携形成の可能性およびその条件を解明した。特に、前年度の提携形成の交渉モデルを純粋公共財としての社会的共通資本の蓄積プロセスに適用し、経済主体の協力行動によって経済がいかに発展するかを分析した。経済発展は協力の可能性に依存し、社会的共通資本の蓄積水準は成長および後退を繰り返しながら長期的に定常レベルに収束することを示した。さらに、理論成果を検証するための交渉ゲーム実験の設計を遂行した。 (2)組織形成プロセスの進化ゲーム理論的分析 経済主体による組織形成のダイナミックなプロセスを分析する確率的進化ゲームモデルを構築し、どのような構成員をもつ組織が長期的な安定状態として実現するかを考察した。個人が協力に関して異なるインセンティヴをもつ社会状況において、高いインセンティヴをもつ個人だけが協力を実現する状態と全員の協力が実現する状態がそれぞれ唯一の長期的安定状態として実現する条件を明らかにした。
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