本研究の目的は、それぞれが固有の価値を追求する複数の経済主体の間でいかにして自発的な協力関係が実現し安定な提携形成へと発展するか、その条件とメカニズムをゲーム理論の新しい分析手法を用いて考察することである。研究実績は、以下の通りである。 (1)協力行動と提携形成の非協力交渉ゲームモデルの構築と分析 経済主体の提携形成に関する動学的な非協力交渉ゲームモデルを構築し、ナッシュ均衡理論を用いて協力行動と提携形成の可能性およびその条件を解明した。とくに、交渉ルールの比較分析を行い、提案を拒否した後に提案者に選ばれないリスクの存在が合意の遅れを解消することを証明した。また、提携形ゲームではなく戦略形ゲームによって記述される一般協力n人ゲームの非協力交渉モデルを構築し、全員の協力によって実現される交渉結果は、代表的な協力ゲーム解であるナッシュ交渉解とコアの概念を統合するものであることを示した。理論予測を検証するための交渉ゲーム実験をアムステルダム大学CREEDのアルノ・リードル博士と共同で実施し、被験者のもつ互恵主義の誘因が非効率な提携の形成の原因となり、社会的排除という意図せざる結果を導く可能性のあることを実験データによって明らかにした。 (2)組織形成プロセスの動学ゲーム理論的分析 組織形成プロセスの動学ゲームを分析し、純粋公共財としての社会的共通資本の蓄積プロセスと経済主体の協力による社会発展の可能性を考察した。さらに、進化ゲーム理論を用いて経済主体による組織形成の長期的均衡状態を分析し、協力のインセンティブの多様性が組織の進化的安定性に及ぼす影響を解明した。 (3)応用研究 研究成果を地球温暖化問題における国際協力の問題に適用し、京都議定書における温暖化ガス排出削減量の合理性を検討した。
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