研究概要 |
本研究では、不完全市場を前提とするゲーム理論他の応用ミクロ経済理論の成果を利用して、労働供給と探職行動、更にはそれに伴う労働者の移動や入職等の基本的メカニズムの再検討を行い、労働市場政策を「戦略的」側面から再評価を行うための基礎的研究とすることを目的とする。 今年度は、NLSY(米国)および家計経済研究所「消費生活パネル」を利用した統計分析に基づき、"Job Search and Firm Size Effect in Japan"(by Hideo Akabayashi, Takako Fujiwara-Greve and Henrich R.Greve:研究代表者以外の2名は研究協力者)という論文を、現在執筆中である。そこでは、単純な非線形回帰分析により、個人の転職の確率が、その人の学歴や労働時間、さらには企業の規模に、影響を受けることがわかった。大企業ほど転職の可能性が低いことは、転職が少ないという評判が、個人の会社に対する信頼に反映し、その結果、会社の規模が大きくなるという理論と矛盾しない。そこで政策的には、このような入離職情報の積極的な開示を進めることが、労働者・企業の双方にとって有益であることが裏付けられる。さらに、このような実証研究の基礎付けとして、評判の形成を繰り返しゲームの下で再現させる理論の論文(Takako Greve)を執筆した。 さらに、南アフリカ共和国における家計内の戦略的リスク回避と出稼ぎ行動について、5年分の家計データを用いた分析を終え、その骨子については「出稼ぎ労働の経済学-南アフリカ共和国の事例」(赤林英夫)という論文、分析の詳細については、"Apartheid and the Motivation of Migrant Workers"(by Hideo Akabayashi and Keita Suga)という論文にまとめた。そこでは、保険市場が不完備の状況下で、家族内で所得リスクをヘッジするための出稼ぎ行動の存在が明らかになった。さらに、1994年のアパルトヘイト崩壊後に、黒人にとっての出稼ぎ労働の経済学的意義が変化していることが確認された。政策的には、出稼ぎ労働とそれに伴う家族の不安定化を軽減するためには、所得の安定化が必要であることが確認された。 いくつかの学会およびセミナーにおいて、関連した研究の報告を行った。
|