本年度は主に韓国の女性労働に関する文献研究と実態調査を行った。韓国の労働市場は、1997年の経済危機とその翌年のIMF管理体制(以下IMF危機)を経て、大きく変容した。経済危機以前の女性労働を文献サーベイで理解し、昨今の労働市場の変化の過程を現地でのヒアリングによって把握した。 韓国の女性の就業パターンは依然としてM字型を示しているが、コーホートでみると、M字型はそれほど強くみられなくなってきている。これには、社会のその他の変化とともに、男女雇用平等法(1987年に施行、89年に改正)が募集の段階から影響力を発揮してきたようである。 しかし、まだ採用や昇進での男女の差別はある。女性には結婚で退職する傾向も強い。結婚で退職した場合、労働市場への再参入は学歴が高くなるほど少なくなっている。低学歴者の場合には子育て後にまた働き出すが、その多くは非正規職に就く。 男女間には賃金格差もある。保育費用が高いということもあって、仕事に魅力がなく賃金が低いなら退職したほうがいいと考える女性も多い。また、教育熱がわが国以上に強い韓国では子供の教育は女性の仕事とされている。この役割分業の意識が女性の就業を強く規定している面がある。 わが国に比べ、韓国では仕事と家庭の両立を可能するような環境の整備が遅れている。保育施設は90年代以降増加したが、とくに3歳児未満の保育園はまだ不足している。女性労働者を300人以上雇用する企業は保育施設を作ることが義務づけられているので、このことが逆に女性の雇用機会を削減することになりかねない面もある。一方、育児休業は60日から90日に増えたが、60日分は企業が全額支給しなければならないので、企業の費用の負担も大きく、これらが女性の雇用にマイナスの影響を与えている可能性は否定できない。今後、企業の負担を軽くする政策が必要である。 総じて、韓国の女性労働はわが国の何年か後を追っているかに見える。IMF危機以降、経済状況が悪くなったために、共働き世帯が増え、女性労働に対する社会全体の意識にも変化がみえはじめているが、それが就業構造の面で非正規職に集まる傾向があり、雇用構造の健全化を図るには解決しなければならない難題がある。
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