本研究者が開発した、時系列間の因果測度を広範な経済実データにたいして応用可能とするため、平成13-14年度の研究においては、非定常長期従属性を含む時系列の統計的推測理論とその計算アルゴリズムを開発し、因果測度の推定、Wald検定を可能とした。共和分関係をもつ非定常長期従属モデルにたいして、周波数領域でWhittle尤度を構築した。Whittle尤度にもとづいて擬似最尤推定量、および共和分ランク検定を含むWhitttle尤度比などの統計量の漸近分布を、条件付異分散を許容する一般的な撹乱項の仮定のもとで導出した。これらの漸近理論を導出するため、分数ブラウン運動の極限理論をあらたに導出した。これらの結果は、これまで計量経済学で使われてきた、Johansenの共和分理論を拡張するものである。本研究の理論的成果を実際の多変量時系列データに適用し、推定・検定を可能とするコンピュータ・アルゴリズムを開発し、そのパーフォーマンスを精査した。このアルゴリズムは、Hannan-RissanenのARMAモデル推定アルゴリズムを修正して、第3段階では周波数領域で定義された尤度関数を最適化する新しい計算法であり、これも実行可能性を示すことができた。このようにして、非定常長期従属時系列の因果測度の推定・検定のための実行可能なアルゴリズムを得たことが、平成13-14年度の研究における主要な成果である。さらに、これらの統計的推測の実際的な妥当性を調査するため、単位根共和分モデルのWhittle尤度にもとづく日米経済マクロ時系列の分析をおこない、先行研究をこえるあらたな知見を得ることができた。
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