研究概要 |
非定常な経済時系列の統計分析では,単位根問題と共和分分析が,時系列的方法を使って1980年代から研究されてきたが,本研究では,そのあとを振り返るとともに,今後の新たな問題を探ってきた。以下,この1年間における研究内容と成果を総括したい。 1 非定常性とトレンドの問題 単位根検定は,トレンドが確率的か,あるいは非確率的かを見極めるための検定であるが,それはどちらか一方に分類が可能であるという二分法を前提としている。しかし,それが不可能な状況を考察した。 2 長期記憶過程に関する研究 経済データの中には,長期記憶性をもつものが多い。その場合の分析は,階差のパラメータを実数に拡張したARFIMAモデルを使って分析することが多いが,その場合のパラメータに関する検定問題を考察した。 3 長期記憶時系列と観測誤差の問題 長期記憶時系列が観測誤差を含む場合,あるいは構造変化が起きた場合,実際にそれらを検出するための方法を提案した。しかし,その検定はある意味で最適であるにもかかわらず,検出力が低いことが判明した。このことは,定常な場合には特に顕著である。 4 ウェーブレットによる方法 長期記憶時系列と観測誤差が混じりあったデータから,両者を分離して前者のみを取り出す方法をウェーブレットの方法を使って考察した。そして,階差のパラメータを推定するいくつかの方法を提案し,シミュレーション実験でパフォーマンスを調べた。推定に関しては,最尤法が望ましいのであるが,実行可能性からは困難である。シミュレーションの結果,DWPT (Discrete Wavelet Packet Transform)に基づいて誤差を除去し,その上でウェーブレット分散を推定して,ウェーブレットのレベルへの回帰により推定する方法がある程度よい結果を与えた。しかし,さらによりよい方法を考案するのが望ましい。
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