本研究で得られた成果は次の通りである. 1 経済時系列の非定常性の源泉であるトレンドについて、確定的なトレンドと確率的なトレンドの違いを理論的に解明した。結論としては、両者は本質的に異なるものであるが、現実の時系列がいずれのトレンドを持つかを判定する場合の統計的検定の検出力はかなり低い。実際、確率的トレンドを確定的トレンドであると誤って判断することの危険性は非常に大きい。 2 確率的トレンドは、階差パラメータdを実数に拡張したフラクショナルARIMAモデルで近似するのが普通であるが、本研究では、このモデルから得られるさまざまな統計量の漸近的な性質を分布論の観点から調べた。 3 上記のフラクショナルARIMAモデルについて、統計的な問題として、実際の観測値がノイズの影響を受けているかどうかの検定問題を考察した。最初に時間領域の検定を提案したが、その検定は理論的には最良の検定でも、ノイズが大きくなるにつれて実際の検出力が低くなるという欠点をもっていることがわかった。その理由は、ノイズが大きくなるにつれて、シグナルの部分がますます無視され、シグナルが識別不可能な状況となるからである。これに対して、ウェーブレットの方法によるシグナル推定などを考察した。 4 同じく、フラクショナルARIMAモデル、および、それにノイズが加わったモデルの推定問題を、従来から行われている周波数領域の推定だけでなく、ウェーブレットの方法による推定の観点から考察した。推定方法としては、最小2乗法および最尤推定法を考えた。シミュレーションによる結果では、定常な場合には周波数領域における最尤推定が優れているが、非定常性が強くなるにつれてウェーブレットに基づく最尤推定がよい結果をもたらすことがわかった。理論的な検討は今後の課題である。
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