経済学が重視する「効用」の構成要素は、(1)金銭的消費の他に、(2)気候など自然環境アメニティあるいは(3)生活関連社会資本などの社会環境アメニティがあると考えられる。そこで長距離人口移動の決定因は、(1)の源泉である所得・賃金の地域格差、(2)、(3)の地域格差であると考える。高度経済成長期から現在にいたる日本を舞台に「所得水準が低い経済発展段階では人口移動に対して(1)の作用が強く、所得水準が高くなるに従い(2)、(3)の作用が強くなる」という仮説の検証とアメリカとの国際比較が大きな研究課題である。高度経済成長期においては、所得格差に強い説明力があることが判明している(伊藤薫(2001))。それでは、(2)、(3)はどのように作用しているであろうか。 研究手法としては、A:都道府県の継続的移動理由調査の活用(岐阜県;伊藤薫(2001)、東京都;伊藤薫(2002)、広島県;2002年度日本人口学会発表)とB:重回帰分析(2002年度日本統計学会発表、2002年度日本地域学会発表)がある。 (2)について:Aによる調査データからは、岐阜県調査では「自然環境」は移動理由割合は僅少であった。Bに関しては、1990年国勢調査の男女年齢別移動データ(1985年〜1990年)に対する修正重力モデル分析からは、退職後の年齢階層に対して、低気温地域からの転出促進あるいは積雪の少ない地域への流入超過促進が認められた。 (3)について:Aによる調査データからは、岐阜県で「生活環境の利便性」の移動理由割合がこの20年間に上昇しており、東京都では「公園・公害・災害」による移動割合が過去30年間に低くかつ減少してきた。Bに関しては、新国民生活指標地域別指標を利用した予備的分析では、8つの生活領域のうち「働く」「費やす」という経済的生活領域の説明力は高かったが、「育てる」「住む」は人口移動に対して逆相関を示した。
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