本研究の目的は、(i)日本における20世紀後半の長距離人口移動に対する経済力格差要因とアメニティ格差要因(自然環境、生活環境等)の説明力の比較実証分析の実施と(ii)その発表及び報告書の作成である。(i)の研究は、(1)都県の継続的移動理由調査の分析と(2)1970年から2000年の国勢調査の男女・年齢別データに重力モデルと流入超過率モデルを適用する分析に分かれるが、本年度は(2)が中心であった。研究成果を4つの学会で発表し、順次、研究論文として印刷中である。(ii)については400ページほどの報告書を作成した。本年度の研究成果は、報告書に詳しい。 本年度の研究成果の概要は、以下のとおりである。 (1)15-24歳という学校を卒業し、就職する年齢階級には、実質個人所得格差が強力に作用しており、経済学の伝統的モデルが妥当する。低い実質個人所得は、出発地の転出促進に、高所得地の転入促進に作用し、実質個人所得格差は両者の作用が総合されて非常に強い説明力がある。 (2)平均気温は、低気温地域からの転出促進、低気温地域への転入送信と、低気温地域相互間で移動が活発であるという興味深い結果であった。気温の格差は両者の影響が相殺されて、明確な特徴を認めがたい。 (3)流入超過率に対する年齢構造変化の影響は小さく、流入超過率の変化の主因は、人口移動の決定因の作用の変化である。 (4)1970年から2000年の変化は、(1)実質個人所得格差の作用は、地域間格差の作用が弱まってきたこと、到着地の吸引作用が弱まってきたことが、認められた。 (5)平均気温の作用の変化は、明確には認められなかった。
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