1.本研究の目的は、日本における20世紀後半の長距離人口移動に対する経済力格差要因とアメニティ要因(自然環境、生活環境等)の説明力の比較実証分析である。 2.国内人口移動に関する先行研究については、経済学からの近年の研究成果は少ない。そこで、本研究では、基礎的なファインディングに力を注いだ。人々の効用を、所得、自然環境アメニティ、社会環境アメニティからなると想定した。人口移動決定因の分析方法としては、(1)回帰分析の他に、(2)全国的移動理由調査、都道府県実施の継続的移動理由調査の結果を用いた。 3.主な結果は、以下のとおりである。 (1)移動理由調査の結果は、以下のとおり。(1)「職業的理由」は、一貫して卓越した長距離人口移動の移動理由であった。「就職・転職の理由」が低下し、「転勤」が多くなった。(2)「自然環境」は調査項目に無いか、あっても回答割合は非常に低かった。(3)「生活環境」は、岐阜県調査で割合は低いが上昇が認められた。(4)「家族的理由」は全国調査で非常に高い割合があるが、十分に調べられていない。 (2)修正重力モデルと流入超過率モデルによる決定因の分析結果は、以下のとおり。全国10地方間の移動を国勢調査(1970、1980、1990、2000)と住民基本台帳人口移動報告(1955〜2000)のデータで検討した。(1)人口1人当り実質個人所得は、総じて強力な説明力があった。15-24歳で特に強かった。しかし、1970年から1980年、1990年から2000年に所得の作用は低下している。(2)平均気温は、寒冷地相互間で移動が多いという興味深い結果となった。しかし、温暖な地への移動が優勢である状況は、1990年の退職後の年齢階級を除いては、総じて認められなかった。(3)生活水準(PLIによる)は、経済的豊かさが移動の主要な決定因であり、経済的豊かさ以外の生活の豊かさの作用は弱かった。 (3)流入超過率の変化に対する年齢構造変化の影響は小さいことが判明した。
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