研究概要 |
(1)グローバリゼーションを伴う世界経済の構造変化は、1国ケインズ主義的経済管理を機能不全にするとともに,マネタリズム的な経済政策の機能不全をもたらした。その証左は,1980年代末から1990年代初めにかけての日本のバブル経済とその崩壊に現れたが,2000年以後のアメリカとヨーロッパにおいて同様に展開している。IMFのWorld Economic Outlook(2002)は,グローバリゼーションの不安定性とアメリカのバブルの逆資産効果を過少評価している。こうした諸点を指摘することを通じて,1950年代から60年代の投資理論を中心とした景気循環研究を継承し,同時に資産市場を含めた貨幣的側面での景気循環論構築が今後のマクロ経済理論の中心課題となることを明らかにした。(日本国際経済学会第61回全国大会共通論題報告) (2)国際経済学におけるマクロ経済学的アプローチと比較生産費原理に代表される国際貿易論の間の断絶を埋めるために,L.L.パシネッティの純粋労働経済モデルを開放体系として再定義し,比較生産費に基づく産業構造再編を自然価格から乖離する世界市場価格とつなげて考察し,開放体系におけるマクロ経済均衡条件を明らかにした。これによりマーシャルのオファー・カーヴ分析がマクロ経済均衡と必ずしも対応するものでないことをも指摘した。(論文「開放された純粋労働経済体系とマクロ経済均衡」) (3)国際政治において冷戦が終焉したにもかかわらずエスニック・ナショナリズムが世界の統合を妨げてきたこと,ならびに,これまでの研究で考察して来たステイトの抽象性を乗り越える必要性から,国際政治経済学モデルをステイトとしての国家を中心に展開してきた昨年までの研究を踏まえ,ネイションについての政治経済学的考察に立ち入り,ネイションとナショナル・アイデンティティーについてのこれまでの研究の係争点を明らかにし,今後の独自のネイション研究の準備を行った。(論文「ステイトトネイション(7)」)
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