本研究では、日本の貿易相手国別・品目別の貿易指数データベースの開発実績を基礎として、これまで存在しなかった米国の貿易相手国別・品目別の貿易指数データベースを開発し、これらを用いてアジア通貨危機が、日本・米国・アジア間の貿易や経済構造にどのような影響を与えたかについて実物面から定量分析を行う。 97年7月のタイの通貨危機に端を発したアジアの経済危機とその後の回復動向に関しては、いくつかの角度から実証分析がなされている。しかし、問題の性格上、金融面からの分析は多方面から行われているが、貿易を通じた実物面からの分析は必ずしも十分でない。その一つの理由は、従来の実物面からの分析では、その基礎となっている貿易データが、多くの場合ドルもしくは各国通貨ベースの金額データで、数量ベースのデータが欠けているからである。特に、アジア通貨や円の対ドル為替レートが短時日の間に大きく変動した今回のような経済危機の場合には、輸出入の数量指数がどのような動きをしているかを実証的に捉える必要がある。本研究の最大の特徴は、貿易相手国別・品目別の貿易指数データベースを作成・利用することにより、日本ならびに米国の対アジア貿易に関する詳細な分析を行うことにある。 平成14年度には、既に開発した日本の貿易指数データベースのソフトウェアを改善するとともに、これを用いて分析を行った。分析結果として次のことが明らかになった。 (1)輸出面で見ると、通貨危機後、日本から対韓国、マレーシア、インドネシア、タイなどを中心に輸出数量の顕著な減少が見られる。しかし、これらは、98年2Q〜99年2Qを底として急速に回復し、2001年までに概ね通貨危機以前の状況に回復している。 (2)輸入面で見ると、輸入金額では通貨危機後減少を続けているが、数量面では通貨危機を大きく受けた国からも傾向的に増大している。この間、日本の景気が低迷したことを考えると、アジア通貨の下落が、これらの国からの輸出量を拡大する上で大きな役割を果たしたと考えられる。 (3)日本の対米輸入傾向を見ると、相対的にも絶対的(数量面)にも99年以降、広い範囲の品目で減少傾向が見られる。これは近年、日・米・アジア間の貿易構造が大きく変わりつつあることを示している。
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