本研究の課題は、アマルティア・センの「潜在能力アプローチ」を実証研究に応用する理論的方法を探ると同時に、それを東および東南アジア諸国の貧困問題に応用することを通して、従来の所得中心の貧困分析を越える新しい視点を提供することにある。 (1)理論的研究:池本は2001年6月にイギリスのケンブリッジ大学で開かれた会議"Justice and Poverty : Examining Sen's Capability Approach"において論文"Poverty Alleviation Policies and Ethnic Minority in Vietnam"を発表した。さらに、この論文を一般的な枠組みにおいて捉え直した論文"Poverty Alleviation Policy : Efficiency and Capability"を2002年3月にラオスのビエンチャンで開かれた会議において発表した。この論文では、貧困対策をマクロ経済発展政策に位置付け、少ない情報を効率的に貧困対策に結び付ける手法を提示した。 (2)実証研究:2001年12月に中国・上海で開かれた上海社会科学院主催の「中国経済に関する国際会議」に池本と寺崎が参加し、中国における所得分配研究の動向を調査するとともに、所得分配研究者と意見交換を行い、関係者との間で今後の研究協力について話し合った。佐藤は、中国農村において現地調査を継続した。 (3)統計的研究:東南アジアの貧困に関わる統計データに関しては、これまですでに蓄積したものに加えて、新たに利用可能となったものを収集し、若干の分析を行った。中国については、世帯レベルのデータが不足しており、中国および欧米の研究グループとの協力を通して、新たに家計調査を行う可能性を探り、日本側もそれに貢献できれば家計調査結果を利用できる可能性が開かれた。
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