本年は本プロジェクトの折り返し点であり、今後の研究方向を確定する作業を中心に行った。初年度の先行研究のサーペイに基づき、研究の主たるキーワードを「R&D投資、技術のスピルオーバー、協力・非協力的な研究組織、技術戦略、多国籍企業、技術政策」に絞り、今後は、以下の3つの視座でモデルの構築を図る。 1最適な技術政策 戦略的な産業政策を規範的に分析する。ミクロレベルで、企業あるいは産業における市場での相互依存関係を導出し、その上でマクロ的な技術政策による政策効果を分析する。 2多国籍企業の技術戦略:「対外技術戦略:直接投資と技術提携-垂直統合と水平的協力関係」 大小問わず大方の企業が多国籍化する可能性を有する今日、対外技術戦略は企業の命運を分ける。例えば、協力関係を前提とする技術提携(=水平的協力関係)には直接投資(=垂直統合)やライセンス契約と異なり技術の漏出の可能性があるため企業の提携インセンティブは小さくなる。ところが現実に水平的な技術提携は珍しいことではないにもかかわらず、協力関係を定式化した分析は極めて少ない。そこで、組織の問題には立ち入らないで、技術スピルオーバーの可能性を仮定し企業の最適な対外技術戦略の特性を導出したい。 3共同研究の組織形態 日本の企業、組織形態は同条件にある欧米企業のものとかなり異なった要素が多いといわれる。各国固有の企業文化や組織慣行要素が、企業の壁を越えて行われる水平的、垂直的統合のパフォーマンスにどうに作用するか明らかにしたい。特に、我が国の研究組織形態の実例を意識し、市場では寡占的なライバル同士である企業が協力的にR&D活動を行う場合、成否を分ける共通の「組織理念」は何であるのか。また、寡占産業における「共存共栄=独占レントの分配の動機」を仮説としてモデル化したいと考えている。
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