平成13年度まで所有していたインドネシア製造業のミクロデータが不十分であることがわかり、同国統計局より完全なミクロデータを購入し再度分析を行った。結論は、インドネシアの生産性向上のメカニズムは、既存工場の生産性向上というよりも生産性が高い工場の市場シェアの拡大、ならびに、高い生産性を誇る工場の参入または低い生産性工場の撤退によるものであることがわかった。つまり、生産性向上には、新規企業の参入や既存企業の撤退を行いやすくする政策が不可欠であるという結果がでた。一方、外資系企業の生産性向上への貢献であるが、いくつかの産業を除いては大きくはないという結果が得られた。インドネシアのような大国では地場系企業の育成も欠かせない。 残念ながらインドネシアと同程度な、詳細なデータの入手は他国では困難であった。しかし、台湾とタイにおいては分析に必要な最小限の変数を含んだ製造業のミクロデータの入手が可能であったので、直接投資が生産性向上にどのような貢献をもたらし得るかにしぼって研究を行った。台湾については、外資系企業の経済発展への貢献度がきわめて大きい。しかしながら、その貢献方法は時代によって変化している。初期の頃は、雇用創出や輸出拡大への貢献が主であったが、近年では、R&D投資を通じた生産性向上へと変化している。タイにおいても外資系企業の生産性向上への貢献が著しいが、同企業はバンコク周辺に集積しており、タイの地域間格差をさらに助長する傾向がある。今後のタイ政府の地域政策に重要な政策的インプリケーションが得られた。 市場経済化を目指しているベトナムについても、電子・電機産業にしぼって外資系企業の生産性向上を含めた経済発展への貢献度を探った。民間企業が未熟かつ国営企業が非効率なベトナムでは、外資系企業が成長のエンジンそのものであることが明らかとなった。ベトナムにおける投資環境の整備が急がれる。
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