本年は基本モデルの動学的な拡張を中心に研究を進めた。とくにこれまでに得られた観察が端点解、ひいては広告費用が低いことに依存していたので、これを一般化することに努めた。なおも、対称ケースに限られているものの、これまでの厚生に関わる命題が、広い範囲で成立することに加えて、多数均衡、混合戦略、均衡非対称均衡が出現するケースが認められた。とくに非対称均衡等は、動学過程の考察の重要性を示唆するものである。他方、従来の分析との比較の上では、このような一般化には限界があることも認められ、認知面でのモデル拡張の重要性が再確認される。また、これまでに得られた重要な観察結果である、事前事後の厚生基準に関する一種の反例については、その成立範囲が広範であることが確認できた。他方、より広い意味での情報伝達型広告のモデルとは、静学的な設定では共通性が認められるが、上述の観察については、背後の上位選好の存在が主たる理由で、少なくともその結論が共有されうるかどうかは、自明ではない。この点は継続して確認する価値があるものと考えられる。この点に関連して、認識される選好を、逆方向に向けるような記憶変更は、行えないものとしていること、しかし、メッセージが対立メッセージを妨害することはあると考えている点が、それぞれ、一定の影響を及ぼしていることが明らかになった動学面での分析については、逐次形モデルの分析の準備を進めている。この他にも前年から継続している、単純な動学過程の応用可能性について、環境管理の分野でひき続き、有用な結果が得られる見通しが得られた。
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