平成14年度は、1978年末までの「社会主義」と現在の「社会主義市場経済」は中国の失業・雇用問題をどのように処理した(している)のか、それは民衆に何をもたらした(している)のかを総括した。その結果、以下の点を明らかにるすことができた。 (1)「社会主義」時期では、雇用問題は、資本・技術集約的重工業優先発展戦略と計画的資源配分の枠組みの下で解決がはかられた。したがってミクロレベルではソフトな予算制約の下で雇用拡張的であったが、マクロレベルでは雇用制約的であった。 (2)失業問題の解決では、都市部住民の雇用の一手引き受け・計画的配分、農民の都市流入制限、および都市知識青年の農山村下放が推進された。 (3)大躍進期には雇用需要が急激に拡大し、失業解消現象が出現したが、農村労働力の供給能力の限界を超えた就業拡大であった。またこの時期には固定労働制度が全面化した。 (4)「社会主義」時期の反失業政策は結局のところ1)都市と農村の分断と身分制度、2)固定的労働制度、3)単位制社会を生み出した。民衆にとっては「社会主義」は平等で公平な社会ではなく、身分的格差の大きい、将来に希望のもてない社会であった。 (5)「社会主義市場経済」では、失業の消滅ではなく、社会的セーフティーネットの拡充と就業機会の拡大で失業の脅威の緩和がめざされている。就業機会の拡大では、近年、非正規就業が重視されるに至っている。00年には都市部就業者の45%強を占めたと見られる。 (6)非正規就業の労働関係は、長時間労働、低賃金、無保障、短期雇用などを特徴としており、非正規就業の増大は、都市部労働者階層の地位低下、底辺化をもたらそう。 (7)民衆にとっての「社会主義市場経済」は、自由の拡大(職業選択、転職の自由)で、限りない希望をもたらした一方、同時に、競争の残酷さが同居している社会である。
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