平成15年度は、中華人民共和国建国から今日までの就業政策、労働政策に関する資料、文献の収集と翻訳を行うと同時に、今日深刻化する失業問題の現状と展望について分析した。後者の分析では以下の点を明らかにした。 (1)中国の公表失業率は2003年4.3%(800万人)と低い。しかしこれは都市戸籍を持ち、かつ失業登録したものだけを集計した都市部登録失業率であり、これに、かつて終身雇用を約束されていたものの、生産と経営状況の悪化等の原因から、3年の猶予付き解雇を通告された一時帰休者等を加えると、実質上の失業率は10%前後にまで達するとみられる。 (2)近い将来も都市部新規労働力1000万人、一時帰休者600万人、失業者800万人、合計2400万人の労働力供給の一方、年間の需要量は1000万人余りで、農村労動力の移転を入れない数字でも、1400万人前後の失業が予測される。都市部の最低生活保障金受領者の急増(2003年末2235万人)も考慮すれば失業問題は深刻化している。 (3)しかし近年、高度経済成長が雇用拡大に結びつかなかった原因は、資本・技術集約型産業とハイテク産業に傾斜した成長モデルにあったとして、労働集約型産業の発展にも注意が向けられてきている。また雇用に関する規制の緩やかな、規制から事実上外れた非正規就業の発展にも力が入れられている。これらの措置は、失業問題の深刻化に一定のブレーキをかける可能が大きい。 (4)ただし非正規就業の労働関係は、労働者の働く権利ではなく雇用主の働かせる権利が貫徹したものになっているのが実態である。したがってこうした非正規就業の発展は、労働法などで保護された正規就業者との格差を広げ、労働者間の亀裂・対立をもたらす可能性があることに注意を向けておく必要がある。
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