中華人民共和国建国から今日までの就業政策、労働政策に関する資料、文献の収集と翻訳を行うと同時に、建国以来の政府の失業対策について分析を行った。得られた成果は以下の通り。 (1)1978年末までの「社会主義」時期の失業対策は、都市部住民の雇用の一手引き受け・計画的配分、農民の都市流入制限、および都市知識青年の農山村下放を主とするものであった。 (2)「社会主義」時期の反失業政策は、1)都市と農村の分断と身分制度(「都市住民」と「農民」、「幹部」と「労働者」等)、2)一旦就職すれば、終身雇用が保障されたものの転職はままならない固定的労働制度、3)仕事の場であるとともに生活の場でもある単位制社会(したがって単位を離れれば生活できない)を生み出した。農民はもとより都市民衆にとっても「社会主義」は平等で公平な社会ではなく、身分的格差の大きい、将来に希望のもてない社会であった。 (3)改革開放以降、特に市場経済化が本格化した1992年以降、失業問題は深刻化している。政府の政策は、失業の消滅ではなく、社会的セーフティーネットの拡充と就業機会の拡大で失業の脅威の緩和をめざすものである。 (4)就業機会の拡大では、近年、非正規就業が重視されるに至っている。しかし非正規就業の労働関係は、長時間労働、低賃金、無保障、短期雇用などを特徴としており、非正規就業の増大は、都市部労働者階層の地位低下、底辺化をもたらそう。 (5)民衆にとっての「社会主義市場経済」は、自由の拡大(職業選択、転職の自由)で、限りない希望をもたらした一方、同時に、競争の残酷さが同居している社会である。
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