研究予定に従い2通りの作業を並行して進めた。 第一に、バイオ関連特許やビジネス・モデル特許について、今日的な問題状況の正確な把握に努める見地から、国内外の専門的学術研究および概説書、雑誌、新聞、インターネット上の関連記事を数多く収集・検討し、また関連分野の研究者と必要な意見交換をおこなった。その一環として80年代後半から90年代にかけてバイオ新薬のホープとして注目されていた血栓溶解剤TPAをめぐる日米特許紛争についてケーススタディを試みたが、疾病の予防・治療という公共財に密接に関わる分野での知的所有権保護のあり方に改めて関心を深めるところとなった。とくにゲノム創薬やイネ・ゲノムをめぐっては、市場経済性の優先視により国際公共財性が軽視される危険が痛感されるので、今後より重点的な考察を期したいと思っている。 第二に、米国の知的所有権制度・政策が1990年代に顕現した経済構造の変化-しばしばニューエコノミー化と呼ばれる-と関連し合ってきた点を意識しつつ、米国ニューエコノミーのダイナミズムを解明することに努めた。ニューエコノミーが必ずしも安定的な経済発展を約束するものではなく、むしろ経済の安定を掘り崩しかねない性格を帯びている点を析出したが(たとえばニューエコノミーの象徴的存在とされたエンロンの破綻にしても、単なる不正会計問題による悲劇というにとどまらず、ビジネス・モデル面での問題が強く災いしたのではないかとの感触を得ている)、それが知的所有権制度・政策の運営といかなる関係にあるのかを明確に見定める課題はまだ未決のまま残されている。
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