住宅監査調査は、「『人種等観察したい属性のみを異ならせ、不動産業者との間で同一の受け答えを行いうるよう訓練されたペアを組織する』→『それぞれのメンバーを同じ不動産業者に続けて訪問させ、受けた対応を記録する』→『その記録を統計的に処理する』」ことによって、住宅市場における差別を検出しようとする手法である。 2001年に行われた、高齢単身者を対象とした住宅監査調査から得られた結論は次のようにまとめることができる。 ・賃貸住宅市場では、高齢者に対して提供される物件情報の量が、非高齢者に比べて約3割少ない。 ・高齢者差別の要因として、将来の家賃支払い能力が低い者が差別されるとする仮説、正当事由借家が一般的な状況の下では、予想入居期間が長い者が差別されるとする仮説がデータから支持された。しかし、高齢者の選好を予想する不動産業者の行動が結果的に高齢者差別をもたらすとする仮説はデータからは支持されなかった。 また、我が国では、高齢者のみに集中して居住する傾向が観察される。「高齢者に対する非高齢者コミュニティでの差別」及び「高齢者住宅市場における家賃の硬直性」がこの集中をもたらしている可能性がある。前者については、身体状況が変化するリスク及び非高齢者との生活習慣の相違が、後者については、借地借家法が影響しているものと考えられる。 2001年の住宅監査調査に対して、いくつかの点に関して改善が加えられ、高齢者全体を対象とした新たな住宅監査調査が2002年に行われた。得られた結論は以下の通りである。高齢者に対する入居差別は統計的に有意に観察された。また、高齢者の将来所得が変化するリスク、失火等のリスク、居住期間が長期化するリスク及び住宅立地に関する選好、並びに非高齢者のコミュニティに関する選好が高齢者の入居差別に影響を与えていることが示唆された。さらに高齢者の家族構成、年齢に応じて入居制限の態様が異なることが明らかになっている。
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