本研究は、前年度に形成した日本物流業の競争優位構造をロジスティクス対応行動の面から分析するための2つの視点、つまり市場支配とコスト削減による伝統的戦略(「コスト削減戦略」と略称)」と「サプライチェーン・マネジメント(SCM)に対応する新規サービスの創出戦略(「サービス創出戦略」と略称)」に注目して、とりわけ日本の輸出物流構造における空運業と海運業(コンテナ船業)の競争優位構造、港湾物流に見るロジスティクス優位のソース、さらには、全体を基礎づける企業間取引の構造につき考察を展開した。 コンテナ船業と空運業がわが国輸出貿易に果たす主導的役割は、対米、対欧、対アジアの主要3地域において共通して、1992年前後を分岐点として大きく転換し、空運業が新たな発展の基礎を固めたことが注目される。それ以前に両輸送モードが相互補完的に、かつ相乗的に発展して来た理由は、コスト削減戦略の下では両モードが共通してかかわる限界的グレーゾーンが広く存在し、このゾーンが一方的に支配される事がなかりたからである。ところがSCMの下でサービス創出戦略が本格化した90年代前半においては、空運の競争優位がビジネスモデルの中で醸成され、その結果、競争的グレーゾーンの大半が空運支配の下におかれるようになったのである。 分析結果は、これに留まるのではなくて、海運と空運の競争優位の動態が、産業のライフサイクルやプロダクトサイクルを映す鏡でもある点にも注目しなければならない。日本の対米、対欧、対アジアの輸出物流が共通して空運志向性を強めているという事実は、産業構造の革新に向かう強いトレンドが機能しているということであり、この点もあわせて実証されている。 さらにSCMを基礎づける企業間取引が回避しえないトレンドにあることを、海運市場の形成時代から現代までの約100年の取引機構を振り返って、史的、制度的、法的、経済的に実証した。 一方港湾活動においては、アジア諸港の構築したビジネスモデルがロジスティクス時代の競争優位を固めつつある中で、日本の拠点港湾の合併経営を指向することが、サービスの創出戦略を媒介にした実質的な成果向上に繋がることを、大阪湾経営に注目して実証的に解明した。
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