研究によって得られた暫定的結論は次の通りである。 (1)国際的再編成の進行によって、日本自動車産業の分業構造は輻輳した形で改革が進行している。従来の系列的取引関係は脆弱化しながら、他方ではメーカー・サプライヤー間に「信頼による関係」を如何に構築するかの課題に直面している (2)大手サプライヤーは、システム/モジュール化への対応、系列的取引の希薄化と濃密化という両者に対応した提携=アライアンスを含む企業間関係の再編行動を展開している。大手サプライヤーは、現地生産、とりわけアジア進出を強化している。 (3)2次、3次サプライヤー、サービスサプライヤーへの影響は多面的でかつ深刻である。 (4)世界的再編成と地域集積との関連は次のようにいえる。ITによる世界最適調達のもつ自動車産業の地域集積の経済的効用への影響は現在のところ限定的である。その理由は、世界調達への対応が可能な大手部品メーカー(Tierlサプライヤー)は、従来の地域産業集積を生産基盤としている例が多いからである。 (5)モジュール生産化が地域集積にいかなる影響を与えるかは、集積地の技術開発力や製造技能の集積度にかかっており、決定的なことはいえない。 (6)本研究の対象期間である1990年代後半以後に期間を限定すれば、国際的な自動車産業の再編成運動は地域集積構造への影響はかなり限定的であり、また地域によって異なっている。 (7)各自動車産業集積地は、総じて世界的な産業再編を積極的に受け止めて対応している。自動車の地域産業集積は、21世紀の最初の10年間で大きな変貌を遂げると予測される。
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