漁業においては主要な生産要素である水産資源が私的所有の対象になっておらず、各生産者による漁獲が外部不経済効果を有することなどから乱獲が大きな問題である。各国の行政府は漁獲量や漁具・漁法、および漁区を規制するなど様々な漁業管理政策を行っているが、漁業者の経営行動を効果的に制御する事は難しい。 他方、最近の実証研究で、従来の新古典派経済学をベースとした生物経済モデルでは説明する事が出来ない漁業者の行動と水産資源の動態が次々に明らかになっている。そこで、「不完全な知識を持つ諸個人が市場プロセスによって開示される知識を通じて自らの無知の限界を超える可能性をもつ」とする、ポスト・オーストリアン・アプローチを用いて、我が国における漁業管理政策のもとでの漁家の振る舞いを解釈し、'新たな政策理念を確立しようというのが本研究である。 従来用いられてきた漁業管理政策の理論は、水産資源の現存量や、毎年の持続可能生産量を行政府が把握し、漁業者に対する規制措置で最大持続可能生産量をもたらす資源量水準に制御することが可能という前提であった。新古典派経済学に基づき多くの資源・環境経済学者は課税や譲渡可能漁獲割り当て制(ITQ)により効果的な漁獲規制が達成されると提案している。ITQは多くの国で採用されているが、不正漁獲や混獲が問題になっているだけでなく、規制を実施していながら資源の枯渇を招く事態がカナダ等で頻発している。 研究代表者の佐久間は、漁業者の中でも主として小規模な家族経営を行っている漁家が、自生的に漁業管理組織を造って活動を行うことに注目してきた。資源・行政府・漁家等が非線形かつ不均衡な動態を示す漁業管理システムに、知識の不完全性や時間の流れに沿った活動のプロセス、および主観を重視したポスト・オーストリアン・アプローチを適用することにより新たな解釈を進めている。
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