研究概要 |
漁業においては主要な生産要素である水産資源が私的所有の対象になっておらず、各生産者による漁獲が外部不経済効果を有することなどから乱獲が大きな問題である。各国の行政府は漁獲量や漁具・漁法、および漁区を規制するなど様々な漁業管理政策を行っているが、漁業者の経営行動を効果的に制御する事は難しい。そこで、「不完全な知識を持つ諸個人が市場プロセスによって開示される知識を通じて自らの無知の限界を超える可能性をもつ」とする、ポスト・オーストリアン・アプローチを用いて、我が国における漁業管理政策のもとでの漁家の振る舞いを解釈し、新たな政策理念を確立しようというのが本研究である。 研究代表者の佐久間は、漁業者の中でも主として小規模な家族経営を行っている漁家が、自生的に漁業管理組織を造って活動を行うことに注目してきた。資源・行政府・漁家等が非線形かつ不均衡な動態を示す漁業管理システムに、知識の不完全性や時間の流れに沿った活動のプロセス、および主観を重視したポスト・オーストリアン・アプローチを適用することにより新たな解釈を進めている。研究によって得られた新たな知見のうち,主要なものは以下のとおりである。 1.乱獲を防ぐ政策を行うために必要な情報の多くは漁業者による操業そのものによって得られており,それを効果的に政策担当者に伝えるシステムを構築することは難しい。 2.漁業者の多くは操業によって得られた情報を独占的に利用し,もっぱら漁獲量を増加させる方向で努力することが多い。反面,マーケティング活動などへの情報活用は乏しい。 3.漁獲量を増加させようとする場合,新たな優良資源(漁場)を利用する方向で努力する場合と,自らが「占有的」に利用している漁場での資源利用をより効率的にする方向で努力する場合とがある。そのような努力の方向性の差は,漁業管理組織の形成過程等にも影響する。
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