本研究はバイオテクノロジーの安全利用(バイオセーフティ)と生物多様性資源利用に伴う南北間の利益配分を主柱とする生物多様性条約が発展途上国の経済に与える影響をテーマとする。本年度は、前者のバイオセーフティの問題に着目し、関連する国際条約の条文分析を中心に行った。その分析における重要なポイントは、グローバル経済化の中で遺伝子組み換え作物のような科学によってその安全性が証明できないような品目の貿易を規制すべきかあるいは自由貿易を重視すべきかであった。特にアフリカ地域の発展途上国は遺伝子組み換え作物の普及が飢餓の克服に貢献するという期待をもっており、安全性よりも食糧増産の目的から遺伝子組み換え作物の貿易自由化に積極的である。それに対し、ヨーロッパ連合加盟諸国は、「科学的不確実性が遺伝子組み換え作物の輸入規制を妨げることはできない」という予防の原則に則り、遺伝子組み換え作物の貿易自由化に慎重な姿勢を見せている。これはあくまで遺伝子組み換え作物の貿易自由化を主張する米国やWTOと対立している。本研究は、導入部として、生物多様性資源利用をめぐる世界経済の変化を整理した。 研究の成果として、生物多様性条約に基づいてバイオテクノロジーの安全利用を規定するバイオセーフティ議定書(カルタヘナ議定書)は、予防の原則を明確に規定するものの、その内容には遺伝子組み換え生命体の安全利用を確立する上で大きな課題をかかえていることを明らかにした。それは、このバイオセーフティ議定書の予防原則は遺伝子組み換え作物には適用されるが、遺伝子組み換え食品には適用されないのがそれである。また、例えば遺伝子組み換え大豆を食品や飼料として直接利用する揚合には、輸入国は輸出国に対してリスク評価を要求することもできなければ、そのリスク評価に伴う費用を輸出国に負担させることも同議定書では認められていない。
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