研究概要 |
タイは,工業化によって,製造業部門の生産額・雇用は伸長し,農業投入財の増加やアグルビジネスの興隆を通じて農業の土地生産性も高まった。そして,直接投資の受け入れ,輸出の拡大も作用して,高い経済成長率も記録した。しかし,工業化は都市の雇用増加に寄与した反面,地方の雇用の多くは労働生産性の低い農業に従事しており,都市・地方間の所得格差は大きく,貧困問題が残っている。しかし,タイの地方人口が多いことは,農業の雇用吸収力が大きいことの反映でもあり,その雇用メカニズムが問題となる。また,地方の雇用機会は,農業が中心となろうが,農外雇用機会についても検討すべきである。農業投入財の投下水準は,先進工業国に匹敵する水準に近づいており,熱帯林の減少など耕地拡大の制約が強まっていることをふまえれば,地方の貧困解消は,農業の枠内だけでは解決でないからである。 このような開発途上国の実情に対して、日本のODA対GNP比は,主要援助国の中では米国の0.10%,ドイツ0.26%を上回り,0.35%であるが,また,援助先進国を含め多くの国では,ODA供与額の減少,ODA対GNP比の低下など,援助疲れに陥っている。この背景は,(1)冷戦終焉によって東西対立に起因する援助が減少したこと,(2)不況対策・財政赤字削減などの財政問題,(3)高齢化社会の下での社会福祉の拡充,(4)情報技術産業の育成,(5)債務危機や通貨危機など開発途上国のリスクの顕在化,などが指摘できる。つまり,日本では,国内経済が悪化し,ODAは削減されたが,これは国民の世論を反映したものとなっている。したがって,国内的には世論の反応を意識したグッド・ガバナンスではあるが,援助疲れを理由とした負担回避の傾向が顕著である。環境ODAについても増額することは難しく,分野別配分を見直して,草の根援助を強化することが今後の課題であろう
|