鉄道事業と郵便事業を中心に公益事業の民営化・規制緩和とユニバーサルサービスとの関係について、日本とドイツを比較するという本研究に関して、今年度は、文献研究に加えて、日本では北海道において現地調査を(北海道ちほく高原鉄道専務理事、北見郵便局長への聞き取り調査および旭川市郊外過疎地域の郵便局)おこない、ドイツではマンハイム市の郵便集配センターおよびシュバイヤー市の小包み配送センター調査およびドイツポスト本社での聞き取り調査をおこなった。 これらの研究・調査のなかで、民営化・規制緩和とユニバーサルサービスとの関係についての論点が端的に現れているのが、ドイツの郵便事業であることが判明し、今年度は、本研究の第一段階としてこの点について研究をまとめた。ドイツでは、1995年1月のドイツポスト株式会社の設立、と、そして98年の郵便事業の部分的自由化(200グラム未満の書状はドイツポストの独占分野)99年11月の株式上場と民営化・規制緩和の進展が見られたが、同時に、ユニバーサルサービスの維持についても議論され、実施されている。1999年の郵便ユニバーサルサービス規則(Post-Universaldienstleistungsverordnung)がそれである。同規則は、「一定の質と適切な料金で全国あまねく(flachendeckend)提供される郵便サービスの最低基準である」という郵便法の規定を受けて、2キロ未満の書状、20キロ未満の小包および新聞・雑誌の集配をユニバーサルサービスの対象として、郵便局、ポストの数、収集曜日と回数、配達回数・速度)などの質的指標、料金水準、さらには、市民の陳情権などについて定めている。 問題は、これらの指標が妥当なものであるのか、また、実際の郵便サービスがこれらの指標を遵守しているかどうかである。結論的に言えば、これらの指標は、株式会社化し、UPSやフェデックスなどの米国系物流企業と競争するために営利性を強めているドイツポストの経営政策に配慮したものであり、従って、ユニバーサルサービスの確保という点で疑問があるということ、もう一つは、監督官庁である郵電規制庁の年次報告書でも明らかにされているように、これらの指標を遵守しないで、とくに郵便局が廃止されている事例が存在していることである。 ドイツにおけるこのような問題は、わが国の郵便事業の民営化・規制緩和に関わる議論と深く関連している。この点は、わが国の議論の深まりを待って、来年度に本格的に研究する予定であるが、ただ、ドイツと日本では、郵便貯金の規模および小包部門における競争状態が、大きく相違している。とくに地域金融機関としての役割が、わが国の場合、きわめて大きいことが、旭川市郊外の調査からもいえるのである。この点をもふまえて比較研究を進めたいと考えている。
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