(1)郵便事業では、民営化・規制緩和後のドイツポストと郵便事業の問題点を分析し、その後、わが国の郵便事業改革との比較をおこなった。結論的に言えば、民営化・規制緩和以後、国際物流コンツェルンとして脱皮するという経営戦略をドイツポストが展開しており、そのことが、国内郵便事業において、一定重量と一定料金内ではドイツポストの独占が認められたこともあって、民間参入業者との間で不公平な競争関係が生じている一方、国内の郵便事業の合理化および料金引き上げを通じて、ユニバーサル・サービスの確保と対立する側面を生み出していることが明らかになった。2003年4月に日本郵政公社の設立と郵便事業の民間参入を可能にしたわが国の郵便事業改革とドイツのそれを比較すると、双方ともに民営化と自由化を志向している点では共通しているが、同時に対照的な側面、すなわち、ドイツでは株式会社化と株式上場・一部売却が行われたのに対して日本では公社化にとどまったこと、ドイツでは、排他的ライセンス分野を設定してドイツポストを保護しているのに対して、我が国では、一定の条件を満たせば、民間参入が原則的にすべての分野で許可されるに至ったことなどを指摘しえた。この相違がなぜ生み出されたのかは、わが国の郵便事業改革は緒についたばかりでもあり、今後の課題とせざるをえなかった。 (2)鉄道事業についての日独比較研究では、すでに、『ドイツ統一と公企業の民営化』(同文舘、1996年)における分析結果が、その後の経過の中で生じた重要な問題に焦点をあて、今日も妥当するかという視点から分析を行った。ドイツでは「上下分離」の見直し問題、わが国では、JR本州三社の完全民営化問題を取り上げた。その結果は、簡潔に言えば、双方とも民営化と規制緩和では共通性を有しつつも、依然として、ドイツの鉄道改革は公共的要素をわが国の場合よりは、より公共的要素を有しているということである。
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