日本の都道府県別データ(1970-1997)を用いて、公教育費と所得の成長の関係に関して、労働者の教育程度の影響を考慮しながら、実証分析を行った。近年の高等教育機関への進学率の上昇による人々の平均教育年数の増大は、学歴の分散化あるいは不平等をもたらしているかもしれない。教育年数あるいは学歴はそれが所得と直接的な関連を持ち、経済成長の説明要因となりうることから、ここでは労働者の教育年数およびその分布に注目し、教育分布の指標として、教育ないし人的資本ジニ係数を算定した。所得不平等と経済成長の関係の分析については、これまで数多くの先行研究が存在するが、とりわけ日本のデータを用いて人的資本の分布ないし不平等の経済への影響を分析した研究は皆無である。労働者の教育年数、公教育費の推移とともに、経済成長、公教育費のそれぞれの決定式に人的資本ジニ係数の影響を組み入れた同時方程式モデルの推定結果を提示した。教育費の経済成長への影響については、人的資本理論は、教育への支出は将来の所得の増大をもたらす、すなわち経済成長を促進させる効果を持つと説明する。しかしながら、現時の支出は経済成長を抑制することになる。ここではそのような相互作用のメカニズムについても考察を行った。その結果、人的資本ジニ係数は、経済成長にも公教育費の決定にも有意かつ負の説明要因であるとの推定結果を得た。また、公教育費と経済成長の同時方程式モデルの推定結果からは、公教育費が経済成長に対して正、負の相反する影響をもたらしているという可能性がうかがわれることを指摘している。
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