本研究では、1930年代の日本で展開された経済統制に関して、以下の3つの課題に取組んだ。(1)大恐慌を契機として経済統制政策が実際に登場するに至る歴史的・社会的な背景に関する考察、(2)当該期に展開された電球工業統制に着目し、その全体的かつ重層的な構造を明らかにすること、(3)電球硝子工業統制に着目し、その展開をめぐって業界団体(工業組合など)と労働組合とが、それぞれいかなる協力を行い、どのような役割を果たしたかについて検討することである。これらの研究課題に取組んだ成果として、第1に、大恐慌下の物価下落、企業活動の状況あるいはその結果生じた社会問題および他の政策展開との関連から改めて経済統制の登場とその歴史的意義について明らかにすることができた。第2に、電球工業統制の研究では、当時の日本が植民地をも抱えた「帝国としての日本」であったことも踏まえた形で、中小工業統制の重層的な構造を明らかにし、事例研究の豊富化に寄与できた。第3として、電球硝子統制に関する研究では、業界団体(東京バルブ会、東京電球硝子工業組合)の成立経緯、その活動内容について詳しい情報を得ることができた。特に東京電気による余剰バルブ外販問題の発生に対する業界団体の対応を新たに解明し得た結果、国内電球統制と電球硝子統制との関連や類似性についても比較検討することができた。また労働組合の活動に関しても、電球産業全般にわたる統制構想、電球販売事業の展開や自主管理工場の運営についての史実を発掘しえた。さらに労働組合が業界団体と連携して、企業内福利の充実や統制違反者に対する制裁措置を行い業界の安定化と労働条件の維持・向上を図った実態を明らかにすることができた。
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