研究概要 |
本年度は,主に,植民地期ベンガルの農業統計と国勢調査のデータの入力,及び,県別土地調査事業最終報告書の精査を行った。そして,それらに依拠して,ベンガル州を構成する27県の内,東ベンガルのダッカ地区に属する4県に焦点を絞って分析作業を行った。執筆した論文「植民地期ベンガル農業社会の地域構造(I)」においては,ダッカ地区4県の中で最も最近時に開発が進行したガンジス・デルタ最南端のバカルガンジ県の農業社会構造に関して,農業,カースト,土地制度等々の特徴を把握することを試みた。 この論文においては,県北と県南,そして,ガンジス河,ジャムナ河,メグナ河の合流する河口部に出来た県東の巨大な中洲島のそれぞれが,農業構造に関して独自の構造を持ち、同一県内であっても別個に取り扱われなくてはならないことが明確に示された。農業統計、国勢調査等の巨大データ・ベースを利用するにあたって,県単位で集計を行ってしまうことが,県内の重要な差違性を如何に覆い隠してしまうかを具体的に示すことが出来たことは,本プロジェクトの意義を再確認させることになった。 やや具体的に県内の差違性を述べるなら,県北は,比較的に安定した陸地の上に,早い時期から定住が進み,人口密度も高く,さらに,社会構造的に見るといわゆる上位カースト層が集中し,かれらに仕えるサービス・カースト,農耕カーストなどのヒンドウ教徒が多い。県南は,逆に,広大な森林の開発が行われてまだ間もない地域であり,当然に,人口密度は低く,農業は粗放で,又,社会的に見てもムスリム人口が多い。県南では,農民は自立性が強く,地主支配は農民の強い反抗によって強く制約されていること等々を指摘することができる。
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