本年度は、夏期休暇を利用して渡英し、英国のBritish Libraryにおて、ベンガル州の地籍確定事業関連史料、イギリス商館史料、地租局審議録、農業局年次報告書、その他の各種報告書類を検索し、本研究に必要な文献を出来る限り網羅的に収集することに努めた.特に、地租局審議録を、1880年から1940年前後まで各巻を逐次検索し、地籍確定事業に関する必要な報告類は、ほぼ網羅的に複写した.また、同時に、ロソドン大学アジア・アフリカ学院のPeter Robb教授と本研究についての討論を行い、意見交換を行った. 帰国後は、研究補助を利用しながら、昨年度来のデータ・ベース構築作業を継続し、かつ、本年度に新たに収集した文献・データ群の整理、分析を進めた.そして、これらを基礎にして、本プロジェクトの中間報告的な論文「植民地支配期ベンガル農業社会の地域構造(I)」『一橋大学研究年報 経済学研究44』を執筆し、東ベンガルのガンジスデルタ河口域バカルガンジ県に焦点を当てて、人口動態、農業生産に関する長期的な動向を、県内の地域格差に焦点を当てつつ、分析した.その結果、この県には二つの地域が存在し、土壌、人口動態、農業経営、商業余剰、社会構成、地主小作関係に至るまで、それぞれ、区別されるべき特徴をもつことを示すことができた.また、従来、この地方は豊かな新開地であり農民は一般的に豊かな経済状態にあるとされて来たが、収集した史料を精査することにより、この地方の農民の多くは既に20世紀初頭に深刻な農民負債に苦しんでおり、彼等の内部に雇用労働に依存する富農層と自らの犂さえない貧農層が存在することを検出することが出来た.
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