本研究の目的は、インド東部ベンガル州における英国植民地統治期(18世紀後半から20世紀前半)の農業社会構造とその展開のメカニズムを明らかにするための基礎的作業として、『地籍確定事業報告書』、『ベンガル農業統計(1891-1945) 』、『人口センサス(1872-1941)』、『Risley Collection』などの膨大な量的・質的な史・資料に基づいてデータ・ベースを構築し、それに依拠して一定の分析を行うことにあった。具体的なデータベース構築と分析の作業は、べンガル州を構成する27県の内、平成13年度にバカルガンジ県、平成14年度にファリドプル県、平成15年度にダッカ県を対象として行い、それぞれの県の地域諸類型、人口動態、農業生産の展開、土地制度等についてデータの詳細な整理・検討を行い、ベンガル農業社会の地域的多様性の具体的様相を明らかにしようとした。 その結果、(1)これら3県は、カースト構成、生態学的環境、人口成長率、農業生産、土地制度などの諸点において、それぞれ明確に区別される2〜4つの地域類型に分かれることが示され、(2)これまで通説により均質な小農民が支配的であるとされてきたベンガル東部諸県においても、広範な郷紳・富農と下層農民の存在が確認され、(3)ベンガル東部農業社会が、19世紀末から20世紀初頭にかけて急速な社会変容を経験したことが人口動態分析により数量的に示され、(4)農業社会変容の推進力として、植民地支配下のジュート生産の急激な拡大が決定的に重要な要因をなしたことが農作物の作付構成の時系列分析により数量的に示された。 以上に示された諸点は、いずれも内外の通説をある場合には修正し、他の場合には、これまで以上に詳細かつ明示的に数量化したものであり、今後の植民地支配期ベンガル農業社会研究の1つの基礎を構築したと言えよう。これからのベンガル政治史・社会史の研究は、本研究で示された各県の地域類型を組み込んでなされねばならないだろう。
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