本年度において特に重点とした研究テーマは、自治体による預金保証という絶対安全性を備えていたドイツの貯蓄銀行・振替銀行が1931年銀行危機においてなぜ支払不能に陥ったかに関する問題であり、このテーマをとくに貯蓄銀行における流動性問題と捉えて分析した。その場合、分析領域は第一に貯蓄預金の信用構造における証券信用、第二にそこでの自治体信用、そして第三に貯蓄銀行中央組織である振替銀行にわたった。貯蓄銀行の証券運用では、そもそも安全性確保が目的であったが、実際には保有証券を担保としたロンバードクレディットがライヒスバンクの金融政策のために貯蓄銀行に認められず、それがまず貯蓄銀行の流動性を危うくした。第二の問題の中心にはワイマール期における自治体活動の活発化とそれにともなう資金需要の高まりがあった。この資金需要は、一方で外国から、他方で貯蓄銀行から調達され充足された。しかし1920年代末になると失業者の増加によって自治体財政は急速に悪化し、30年代初頭には返済不能の事態を招くことになった。こうした貯蓄銀行と自治体との資金関係を増幅したのが、振替銀行であった。そもそも振替銀行の目的の一つは貯蓄銀行の安全性確保のためであったが、そのための預け金すら自治体へ貸し付けられていたのであった。こうして1931年銀行危機における貯蓄銀行・振替銀行の危機は、当時におけるライヒないしプロイセン政府とライヒスバンクの金融政策、自治体活動とその財政状態、またライヒ・州・自治体間の財政調整問題のなかで生じたのであった。 こうした研究内容は、平成14年7月27日における戦時経済研究会において一部報告し、ドイツ経済史、日本経済史、フランス金融史、アメリカ金融史の各研究者からアドバイスを得て、その後の成果を加えて年度末に発刊された雑誌論文において公表した。
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