本年度は、研究動向と昨年度に収集した史料に基づく実証研究と、2つの作業を進めた。 (1)1980年代にドイツ学界で提唱された、「経済成長」「技術進歩」概念から離れ、環境次元を組み入れた新たな工業化像の構成のために、初期工業化期(19世紀)と現代の双方から接近する必要を痛感して、研究動向も双方についてまとめた。 1)初期工業化期の環境史に関する動向は、19世紀ドイツのエネルギー転換をめぐる論争を中心にして集約し、次の2点を確認した。 (1)エネルギー転換を考える場合、以前のように「木材不足」のような技術要因とではなく、「自然・労働の資源化」のような社会の深部を捉えた変化と関連づけて説明されるようになったが、それも、90年代以降の研究潮流(環境問題を各時代状況のなかに的確に位置づけ再評価する動き)の反映であること。(2)初期工業化期は、化石燃料・重化学工業(環境立法の集権化)時代とは明瞭に区別される環境史の独自の段階をなすこと。 2)環境史の接近方法を考える上で、現代の環境論争は啓発的な成果を提示している。 (1)政策効果の点で重要なのは「国家(法規制)か市場(経済手段)か」という手段選択ではなく、政策形成・評価全体における市民参加、つまり「国家・市場・市民」の関係のあり方なこと。(2)法・制度そのものでなく、市民の効果的なモニタリングが重要なこと。 (2)それら研究史から得られた方法を、「ドイツ最古・最大の環境運動」と呼ばれる1802/03年バンベルク闘争に適用し、伝来する多様な史料の検討と合わせて、次の結論をえた。 (1)19世紀初頭の環境問題は、絶対主義・官房主義にような大概念では捉えられず、J.ラドカウが提唱した、社会諸層の妥協・合意に導く「法による調整」Verechtlichungに注目して考察すべきこと。(2)市民が国家・企業(市場エージェント)に行使する影響力は強く、公法(営業認可権)と損害賠償・回避(私法)の関係も流動的に留まったこと。(3)上記の方法は、環境行政史・環境運動史の考察にとって有効なこと。
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