当該研究では、都立大学で整理した閉鎖機関資料を利用して国民更生金庫、戦時金融金庫の業務とその戦時総動員政策における役割を解明した。この結果、国民更生金庫が、各種の工業組合、商業組合と共同で中小商工業の整理再編を推進し国民総動員の大きな推進力となったことを明らかにした。また、戦時金融金庫の役割については、兵器産業はじめ平時には採算が合わない産業への融資を専門的に行ったことを詳細に明らかにした。この結果、兵器ばかりでなく、輸送部門、新素材・代替素材開発部門など、予想外に幅広い新規産業への投資があったことなどが明らかになった。そして経営内部資料の検討から、国民更生金庫、戦時金融金庫ともに、政府補償を前提に、巨額の欠損を抱えながら戦時動員体制を支え続けたことなども明らかになった。国民更生金庫の研究は、「戦時中小工業の企業整備」「戦時中小商業の企業整備」「戦時中小企業整備と国民更生金庫の役割」の3編から構成される研究成果にまとめ、戦時金融金庫の研究は「戦時金融市場における戦時金融金庫の役割」としてまとめる予定である。 これまでのサーベイ作業で、この数年整理を続けてきた閉鎖機関資料が他に全く類似のものがない第一次内部資料であることが確認された。この研究によって現代日本経済史研究とりわけ1930年代から40年代の研究において、利用可能な資料の水準は、格段に上昇した。 しかしながら、戦時経済総動員体制下における中小企業整備の実態に関する資料は、ほとんど調査、閲覧が困難である。こうした資料利用環境に鑑み、中小企業整備政策の実態と国民更生金庫の役割を示す重要一次資料を中心に、全6巻の資料集を編集し、解説を付して刊行する予定である。
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