研究概要 |
本研究の目的は、近世日朝貿易の内容を数量的に、かつまた貿易に従事した人々の動向を微視的に把握することにある。このため日本国内外に散逸した膨大な対馬藩宗家の記録類を収集し、分析することが研究の主眼になる。 本年度は研究の最終年度に当たるため、史料調査は長崎県立対馬歴史民俗資料館、および東京大学史料編纂所・慶應義塾図書館・国立国会図書館・東京国立博物館など東京の各所蔵記録での補充調査を行った。とくに長崎県立対馬歴史民俗資料館においては、朝鮮貿易を管理した対馬藩の代官記録の原簿を中心に、勘定関係、朝鮮関係、船関係、藩庁支配関係記録などを調査した。ここでは、収集史料を総て35ミリ及び16ミリ・マイクロフィルムに撮影し、35ミリフィルムにして27本分(約18,900コマ)を撮影し、現像の後、プリンターによる焼付け、ファイル製本、分類・整理作業を行っている。 当該研究における収集史料のなかで、最も注目している帳簿が、(1)『御身代出入積』(長崎県立対馬歴史民俗資料館所蔵本)および(2)『御商売御利潤并御銀鉄物渡并御代物朝鮮より出高積立之覚書』(国立国会図書館所蔵本)である。このうち(1)は、藩財政の収支全体に占める日朝貿易の割合を解明するため、(2)は貿易隆盛期の私貿易の年次的な動きを把握するため有効である。いずれも他史料との比較検討、あるいは補充を行い、貿易市場に参加した日朝双方の人々の動き、日本市場と東アジア市場をリンクする商品経済の流れなども分析対象とすることができる。これら微視的な帳簿分析によって、近世全期の対馬藩の貿易経営の特質を概観すると、私貿易偏重型(近世初期〜中期)から、官営貿易の石高制編入型(近世後期)へと、明らかな変容を遂げていたことが確認でき、いずれにせよ東アジア国際社会の動向と無縁でない対馬藩独自の財政基盤のありかたを指摘できる。
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