19世紀アメリカの農業について、南部は奴隷制プランテーション、北部は家族労働力に依存する家族農場が支配的であったとする見方が通説であり、農業労働者の存在は無視されてきた。本研究の目的は、いわば忘れられてきた農業労働者に焦点をあて、彼らに関する史料を収集し、その実態を探るとともに、彼らが19世紀アメリカ農業において、いかなる位置をしめ、いかなる役割を果たしたかを明らかにすることである。地域としては北部を中心とし、ニューイングランド、ニューヨーク州、そして中西部に焦点をあわせて史料を収集した。全体の状況を知るためには国勢調査資料、個別的には雇用者たる農民の日記、勘定帖などに重点をおいた。国勢調査資料から明らかになったことは、農村において職業を労働者とするものが、かなり多く存在することであった。その中には、農民の息子も多く、彼等は後に独立した農民になってゆくが、中年の労働者や、移民も存在したことが注目される.外国移民は必ずしも工場労働者ではなかった。雇用者の側から見ると、中規模以上の農場では、通常は家族労働力に頼りつつも、農繁期、とくに収穫期には、ほとんどすべてが労働者を雇用していた。家族農業といわれる北部においても、労働者なしには、農場経営が成り立たなかったことが分かる。しかし労働者は農場のみで働いていたわけではなく、農閑期には、都市や運送業で働いていた.また給料は、現物のこともあるが、労働者が町の商店で買い物をし、それが雇用者たる農民の勘定に加えられる場合も多く、商人、農民、労働者という結びつきも存在した。こうしたことから農業労働者が、19世紀のアメリカにおいて無視せざる存在であることが伺われる。
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