本研究は、さまざまな形での国家統制を持って特徴づけられるナチス期ドイツの経済体制において、とりわけ重要な位置を占める企業活動への統制、とくにその営利活動への国家的規制の特質を解明し、ナチズムが資本主義の根本原理である利潤原則に対していかなる立場を示したかを明らかにし、それを通じてナチス経済体制の歴史的性格を把握することを目的としていた。本研究はそのために(1)この課題に関する内外の研究史の状況を解明し、この点において戦前日本の同時代人社会科学者の分析が単に先駆的というばかりでなく、水準の点で今日もなお高い評価を与えられるべきことを示した。(2)ナチス経済思想における企業統制・営利統制にとって最も重要な原則は「公益は私益に優先する」(Gemeinnutz qeht vor Eigennutz)であるが、この原則が私的所有にもとづく私的イニシャチヴ、個人の創意・責任の重視という原則と併立し、ナチズムの独自な営利統制を特徴づけていることを解明した。それは「公益」と「私益」との関連と矛盾の問題でもあり、ナチス体制の企業統制の現実過程におけるいわゆる「混乱」として現象する。(3)営利統制の中で最大の問題は配当制限であった。それは株式会社の所有と経営の関係の問題に直接結びついており、本研究ではそのためにナチスの株式会社認識と株式法(1937年)を併せて解明し、それを全体としての企業統制の中に位置づけた。
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