本研究は次のような成果を得た。1.1990年代における金融機関の破綻状況と公的資金の投入額を歴史的に調査した結果、その数は数十に上り、公的資金の投入も数十兆円に及ぶことが明らかとなった。2.金融機関のパーホォーマンスと経済成長のグランジャー因果については、1976-1999年までの各県のパネルデータを用いて計測した。1990-1999年の金融不況期においては、金融機関のパーホォーマンスから経済成長への一方向の因果性のみが検出され、さらに、経済成長に及ぼす金融衝撃反応もより長期にわたり、不況において金融機関の重要性を示唆するものとなった。さらに、北海道・東北地域の金融機関が最も効率性が低く、四国・九州地域の効率が高い。さらに、この金融機関のパーホォーマンスの低下が経済成長の低下を導いていることが検証された。3.Lucasモデルを改良して金融不況の社会的厚生コストを金額計算した。1990年までを基準期間として、1990年以降の金融不況の社会的コストは、一人当たり、毎月8万円のコストを支払っている。すなわち、8万円の補助を受けないと基準期間と同じ効用を得られないことが判明した。しかも、各地域でコストに格差があり、金融不況の影響には偏りのあることが判明し、このことが、金融不況の脅威を国民全体が強く実感できない理由と考える。本研究は、現在日本経済が直面している金融不況の事実認識と因果関係を検証したにすぎない。次に、我々は、新たな金融システムをどのように構築して、不況を克服するのかという重要な研究課題に取り組まなければならない。
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