研究概要 |
本年度は,所得分配と地方分権の関係を分析するための枠組みや方法の確立を目的として研究を行った. 1.所得分配の公平性を評価するための尺度に関する研究を行った.わが国の地方財政では,所得を直接に個人に移転するのではなく,公共支出を通じて所得再分配を行っている.このことを考慮すれば,所得分配の効果を測定・評価するために,多変量(例えば民間財消費と公共財消費)の尺度が必要となる.本研究ではAtkinson and Bourguignon(1987)の遂時的一般化ローレンツ支配やKolm(1977)のPrice Majorisation,といった従来のローレンツ関数による不平等尺度を多変量に拡張しようとする研究を整理するとともに,地方財政における財源調整問題への適用可能性について研究した. 2.分権的な政府による租税政策がもたらす資源配分上の帰結を探るために,2地域モデルによる分析を行った.その結果,(1)地域間の所得移転が自由であり中央政府が集権的に各地域の租税政策(物品税と生産補助金を考えている)を決定できるときと比較して,各地域が自由に租税政策を実行する完全な分権化では資源配分上のロスが生ずる,(2)分権的な政府活動による資源配分のロスを修正するために,一部の政策手段を集権的に操作しても,常に各地域の厚生が改善できるとは限らない,ことを明らかにした.この結果は,国際学会(第57回国際財政学会:於リンツ大学,オーストリア)で報告された. 3.本研究の出発点となった共同研究者3名の共著論文「地方財源の負担と配分」を加筆,修正してスペインの財政研究所(Instituto de Estudios Fiscales)で報告したものに基づき,これを同研究所からワーキング・ペーパーとして発表した.
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