本年度は、まず1997年東アジア危機に関して、タイ、インドネシア、フィリッピン、韓国に関するデータの収集・検討を行った。次にこれらの国々におけるマクロ的・ミクロ的ファンダメンタルズに関する詳細な検討を行った。その結果、これらの諸国におけるマクロ的ファンダメンタルズに関しては、1994年メキシコ通貨危機とある程度の共通性が見られるが、異質な側面も存在することが明らかとなった。銀行部門を中心としたミクロ的ファンダメンタルズに関してはかなり共通した問題点が明らかとなった。さらにこれら4ケ国に関するSachs-Tornel-Velasco型通貨危機指標を作成し、統計分析に用いる説明変数の妥当性を吟味した。これらのデータを用い1994年メキシコ通貨危機を分析対象としたSachsモデルに東アジア通貨危機を追加する形で試論的分析を行った。この分析結果は必ずしも満足のゆくものではなく、分析の過程で幾つかの問題点が明らかとなった。まず、Sachs-Tornel-Velasco型指標の通貨危機指標としての妥当性に問題があり、改善の余地が存在する。また彼らによって選択されている説明変数には東アジア通貨危機の分析においては、必ずしも適切とは見なされないものが存在する。さらに、彼らの実証分析手法は、厳密な意味では自己実現的通貨危機の検証とはいえない。今後の研究の展開としては、まずSachsモデルに1997年東アジア通貨危機を付加する形での分析には限界が存在する事が明らかとなったので、1997年時点での国際データを構築し、分析を行う必要がある。より本質的な点として、自己実現的通貨危機モデルの厳密な実証分析のフレームワークを構築してゆく必要がある。
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