本研究は、これまでほとんど関心を寄せられることがなかったイギリスにおける製造企業主導型マーケティングの実態を、主に競争委員会の資料を手がかりにし、即時消費用アイスクリーム、自動車、家電産業を例にとって明らかにした。即時消費用アイスクリームは、大手小売商が大きなシェアを占める持ち帰り用アイスクリームとは異なり、ユニリーヴァ(BEW)など大手製造企業が主導している。その主要な小売チャネルはCTNなど零細小売商である。製造企業は、排他的小売店契約や排他的冷凍庫などによって排他的チャネル(系列チャネル)を構築しようとしたが、競争委員会がこれを規制し、系列チャネルが構築されにくい状況が生まれている。卸売チャネルも同様である。一方、推奨小売価格は、零細小売商がこれを実質的に維持するが、推奨を止めればかえって価格が上がると判断し、規制は行なわれなかった。自動車産業の場合、フリート顧客を優遇するディーラー・システムのあり方にイギリス競争委員会は厳しい目を向け、排他的・選択的流通システム(ディーラー・システム)を禁止すべきであるという勧告を行なった。通商産業大臣はこの勧告をストレートには採用しなかったが、フリート顧客との価格差別を禁止するなどの大臣命令を発し、また、EU競争委員会が一括適用委除外を見直す際にも積極的な関与を行なった。家電マーケティングでは、各メーカーは、卸売クラブなどに製品を卸さない選択的流通システムを採用し、さらに、大手小売チェーンと協議のうえで推奨小売価格を設定している。これらの行為は、公共の利益に反すると判断され、それを是正するための大臣命令が発せられた。総じて、イギリスにおける製造企業マーケティングは、わが国と同様、系列化や小売価格の維持など「日本的」と呼ばれた方式を志向する動機を有しているが、競争当局の厳しい姿勢が、そのストレートな実現を阻んできたといえる。
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